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「第60回全日本学生音楽コンクール」-異邦人イグラーユの大阪大会見聞録(3)

2006/09/07(木) 19:31:48

昨日書いた記事に読者からご意見が。

「あのなあ、イグさんや。見聞録いうて、出場者の演奏のことがなんも書いてないやんけ。『大阪人はケチや』、いう話に終始して、あげくの果ては『551の蓬莱』でキョーザこうて帰りましたとさ、やと? なめてんのんか? 豚まんとアイスキャンデーもこうて帰らんかい!」

すんまへん、堪忍してください。

中学校の部の課題曲はパガニーニ:24のカプリース第13番。イグラーユが聴いたのは出場全43名のうちの24名であった。

このホールではコンテスタントは「登壇」する。

そう、一段高くなった壇上に「上がる」という感じの舞台である。

ザ・フェニックスホールに慣れていない異邦人にとっては、この関西圏では定評のあるソロ・小編成専用の室内楽ホールの舞台は、寄る辺なきうすら寒い異空間のようにも思えてくる。

あるいは小さくすると、ヒーロー・インタヴュー用のお立ち台か、選挙演説用のみかん箱か、としようもない連想をしてしまった。

審査が始まる。

コンテスタントは「登壇」のあと、一瞬きりっとした間があって、お辞儀。

・・・・・・

調弦。

そして、のらりくらりした、人を食ったような、デモーニッシュな笑いがヴァイオリンから紡ぎ出される。

こんな風に。

「飛んで、火に、入るるるるるるる、夏の虫」

「飛んで、火に、入るるるるるるる、夏の虫」

次に、息を飲むほど美しい女神の化身が現れ、なまめかしくほほ笑みかける。

「まな板の、上の鯉」

「まな板の、上の鯉」

「助けてえーーーーー」

「飛んで、火に、入るるるるるるる、夏の虫」

一転して、急テンポの哄笑が沸き立つ。

追い立てるような、神経を逆撫でするような。

無数の小悪魔がケラケラと笑いながら激しく動き回り、音の粒子をあちこちに放り投げる。

そしてまた、のらりくらり、ゆっくり、ゆったりと、

「飛んで、火に、入るるるるるるる、夏の虫」に戻る。

前半部繰り返し。

演奏終了。弓を楽器から離す。

一瞬きりっとした間があって、お辞儀。

・・・・・・

・・・・・・?

「ん?」

ない。

あるべきものがない。

拍手がない。

大阪大会は拍手のない大会であったのか?

と言って、異邦人がひとり頑張って、拍手してみる勇気はない。

小さなキャパシティの親密な空気が、こういう場合は逆に息苦しい排除感をあらわにする。「拍手はなしと決まってまんねん」という決然とした気が充満している。

そして、コンテスタントはそもそも拍手を必要としていないのかもしれないとも思う。

次のコンテスタントも、そしてまた次も、「登壇」の後、一瞬きりっとした間があって、お辞儀をする。拍手を必要としない理由は、その「一瞬きりっとした間」にあるのかもしれない。

彼女ら彼らはその時、顔を上方に上げて、視線を2Fの審査員席に注ぐ。1Fの客席はその瞬間、一切視界から消え去る。彼らは審査員席に向かってのみお辞儀をする。

「コンテスタントである私と審査員だけの空間」がそこにある。

こうして、こぢんまりした親密そうなザ・フェニックスホールは、あらゆる意味で審査をするためだけの機能的な密室へと早がわりする。コンテスタントは審査員に聞かせるためだけにヴァイオリンを弾く。

余分な拍手は粛々とした進行の妨げとなり、時間の無駄。これも実利・効率と言えば聞こえはいい。

しかしイグラーユはいくつか美しい演奏を聴いた後、率直に拍手したいと思った。

それを我慢するのは少し苦痛であった。


★9月5日・6日に行われた第60回「毎コン」東京大会・高校の部は67名の応募者中、12名が予選通過しました。*氏名・学校名・学年は9月7日付「毎日新聞」東京本社版より引用。

真柴ゆり杏さん(東京・桐朋女子3年)

中里舞砂さん(同1年)

米倉慧佳さん(同2年)

齋藤羽奈子さん(東京芸大付1年)

常田俊太郎さん(長野県立伊那北1年)

対馬哲男さん(東京・明星学園2年)

藤井杏子さん(東京芸大付2年)

前田奈緒さん(同3年)

鈴木朝子さん(同2年)

成田仁美さん(同2年)

会田莉凡さん(東京・桐朋女子1年)

吉井友里さん(同2年)
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