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コンクール本番に向け、曲の練習と共に、ぜひともやっておくべきこと- 『ジュリアードで実践している 演奏者の必勝メンタルトレーニング』

2013/06/01(土) 13:13:04

■コンクール会場には、独特の緊張感がある。

出場者は皆、極度に張りつめている。客席で聴いている我々にも、それがひしひしと伝わってくる。

手に汗握り、息を凝らして、「学コン」の予選を聴き、思わず 「もうふた呼吸」 等と書いたことがあったが、呼吸が必要なのは聴いているほうのイグラーユも同じで、一度など酸欠状態と緊張で気分が悪くなったこともあった。

「良い演奏をしなければ」という、演奏者としての当然の思い。そこに、他者と比較され審査される競い合いの場であること、ミスやトラブルが結果を左右するかもしれないことへの不安が加わり、演奏者の心身に重く圧し掛かってくる。

■コンクール本場で、心の状態をコントロールする。

コンクールの本番で、プレッシャーを克服し、ベストのパフォーマンスへと向かえるように、自分の心の状態を整えることができればどんなに素晴らしいことだろうか。そんな切実な思いに、ジュリアード音楽院での実践例をわかりやすく紹介した本書は、ひとつの回答を示してくれる。

ジュリアードで実践している 演奏者の必勝メンタルトレーニング

アメリカでは、スポーツ心理学の専門家が、スポーツ選手のためのメンタルトレーニングのメソッドが、演奏家にも応用できることを発見し、実践を重ねている。本書の著者もスポーツ心理学で博士号を取得しているのだが、さらに付け加えると、著者は、もともとアメリカの陸軍士官学校卒で、特殊部隊「グリーンベレー」の隊員だったという。まさに極限状態に追い込まれた時のメンタルコントロールについて、自ら高いレベルのスキルを有しているのだ。

「不安を感じるという心の状態は良くないので何とかして抑えなければ、と考えることでこの問題が一層ややこしくなってしまう可能性もある。」(本書P20)

「『うわぁ、何で今頃? もうだめだ、これは失敗するな』と考えるよりむしろ、同じエネルギーを感じながら『今自分は緊張しストレスを感じている。アドレナリンが注入されたんだ。身体がギアを上げてきているぞ。エネルギーに満ちたパフォーマンスをただするだけなんだ』と気付くことである。」(同P21)

身体が、状況に対応しようとして、アドレナリンが高まる。それは生理的機能に過ぎないのに、私たちの心は、「何故、緊張するんだ。これを抑えないといけない」「このままの状態だと失敗する」と、焦りと不安、失敗への恐怖心を募らせ、それがさらにアドレナリンの供給を高めてしまうという悪循環に陥る。本番で、練習ではありえなかったミスを犯したり、実力を出し切れない結果に見舞われてしまうのは、そのためだ。

■オーディション直前の演奏家へのカウンセリングを通して、明らかにされること。

本書は、その悪循環を断ち切るための心の状態のマネジメントの方法を、近々オーディションを受けることになっているホルン奏者と声楽家に対して行った実際のカウンセリングの様子を通して明らかにしていく。会話がそのまま記録されたこの実践例で、我々自身もカウンセリングを受けているかのように感じつつ、スキルのポイントを学んでいくことができる。

演奏の実力はそこそこあるのに、有名オケのオーディションで予選も通過できなくなってしまったホルン奏者ブライアン。おけいこニストにとって身につまされるケースだが、同時に、彼がどのようにして問題を克服していったのか、そのプロセスがとてもリアルに把握でき、共感をもって読むことができる。

特に、著者によるカウンセリングの後押しで、ブライアンが自ら様々なアイデアを出してトレーニング方法を工夫し始める段になると、彼の言葉が生き生きと躍動し、流れ出す。心の状態をコントロールしつつあるという成果を実感し、さらに前へ前へと進もうとする様子が手に取るようにわかり、読んでいるこちらも前向きなエネルギーをたくさんもらったような気分になる。

■秋になれば、また今年もコンクールの季節が巡ってくる。

今まで教わったことや積み重ねてきた経験と知識を本番でそのまま出せば、それでいい。その通りであるが、「そのまま出す」ということがいかに難しいかは、誰しもが感じることである。

場数を踏むしかないと、コンクールをいくつも受ける戦術で乗り切ろうとする人もいるだろう。が、練習のためとはいえ、やはり結果は気になるはずだ。結果が良くなくても、きちんと割り切れるかどうか。結果に対する落胆が大きくなってしまえば、ステージングの経験を積むという目的自体が忘れ去られ、そこで得たはずのものが何も残らなくなる。「失敗に学ぶ」というのは、至難の業なのである。

演奏スキルの向上は勿論、本番で練習通りのパフォーマンスをするためのメンタルスキルが存在することを知り、そのトレーニングの仕方に目を向けることは、とても重要である。

■場数の経験か、精神論か、具体的なトレーニングか。

「場数の経験」で乗り切るのか、「強い心」や「気合い」等、一方的に言い聞かせるだけの「精神論」で乗り越えるのか。あるいは「あがり性」と断じてあきらめてしまうのか。そのどれでもない、具体的なトレーニングによって身に付くスキルと戦術を自分のものとする方法を試すのか。結論は明らかであろう。

例えば、失敗への恐怖に打ち勝つために、「もし~しちゃったらどうしよう?」と自分にささやいてくる声の主に名前をつけ、それを客観視する方法や、コンクールの課題曲のための練習を他の練習と区別してルーティン化し、実際に本番で演奏する時の感覚に近い状態で練習するなど、今からでもすぐに試せそうな方法が、本書ではいくつも紹介されている。

監訳は、当ブログで以前に紹介したことがある、『演奏者勝利学』の著者で、演奏者のためのメンタルトレーニングを提唱するスポーツドクター、辻秀一氏

読んで終わりではなく、本書で紹介された呼吸法などを実際に練習し、身につけておきたい。

今年の「秋」を、いつもと違う「秋」にするために。

「本番に強い」心を創るために。


●内容

■第1章 分析プロフィール
【自分の精神状態と心の傾向を知る】

1、時速八十マイル--高すぎるエネルギーが続く大きな問題 
2、ボブのささやき--不安を導く心の声 

■第2章 プロセス・キュー
【自らのエネルギーレベルを自覚する】
1、言葉の力--頭の中の声とユーモア 
2、トレーニング日誌--恐怖心と注意力の関係 

■第3章 センタリング
【能力をまとめ上げる】
1、呼吸のすごさ--リラクセーションを創り出す 
2、エネルギーのコントロール--丹田に意識を集中させる 

■第4章 中心から
【パフォーマンスに落とし込む】
1、車輪の中軸--身体を調和する 
2、暖かな空気と流れ出る感覚--イメージをトレーニングする 

■第5章 改善
【リラックスと集中を共存する】
1、大胆指数7--一連の動作をマスターする 
2、ポストイットの威力--過去の成功例と失敗例を生かす 

■第6章 勇気
【緊張を力に変える】
1、最高のパフォーマンス--心拍数もコントロールできる 
2、自分を追い込む--「演奏のムラ」にアプローチする 

■第7章 新しいキュー・ワード
【本番に向けてメンタルコントロールする】
1、流れのままに.フロー.--キュー・ワードを決める 
2、鮮やかに、さらりと--本番の流れをイメージしてみる 

■第8章 あと一歩
【不安を消し、リラックスする】
1、信頼--他人の反応や評価はコントロールできない 
2、人並みの恐れと疑念--本番前の燃え尽きを防ぐ 

■第9章 現地より
【本番での心構えで臨む】
中軸に戻る--心乱される自分を受け入れる 

■第10章 新しいもの
【結果を受け止める】
1、ドレス--成功の理由を自分の行動で振り返る 
2、新しいホルン奏者--成功体験を次の第一歩にする 

■第11章 別のエネルギー
【本当のメンタルコントロールを知る】
それは突然に--気力を蘇えらせる

【Amazon】

ジュリアードで実践している 演奏者の必勝メンタルトレーニング

(関連書籍)

演奏者のためのメンタル・トレーニング 演奏者 勝利学

ベストパフォーマンスを引き出す ~演奏者勝利学実践ノート~ (ヤマハムックシリーズ 90)


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コンクールの結果

小山実稚恵氏にとってのコンクール




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